Since 【第25回  

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4 思いつきでも世のために
 ブラシをカットする機械を導入するなど、ささやかながら「設備投資」をした結果、月産本数は1万本にまで伸びた。
「これからどうするか、困ってるんですわ」
 オフィスに飾られている賞状をちらりと見ながら、苦笑した。某銀行主催の「地域おこし優秀賞」に選ばれたときの賞状だ。
「周囲の反対を押し切って、会社設立や試作品をつくるのに500万円つぎ込んだし、親戚や子どもからもお金を借りてるんです。もうね、見栄と意地ですわ」
 居酒屋のマスターとベンチャー企業の社長、2足のわらじを履いて、早や2年。
「この歯ブラシを売り出したころ、オモロイとは思ってたけど、すばらしいものやとは思ってなかったな。でも歯医者さんとかから褒めてもらったり、マスコミから取材を受けたりするうちに、思いつきでできたモノでも世の中の役になれるんやなぁ……って」
 居酒屋のカウンターから生まれた商品が、ひとりの社長のマインドをも育んでいたのだ。


 

≪KEY PERSON≫

松本 芳夫氏(56歳)

≪PROFILE≫

[出生・出身地]
1947年 大阪市

[趣味・特技]
電車の中で読書
(西村京太郎など。じっとしているのが苦手だから)

[座右の銘] 
ムダな努力とムダな我慢はしない


≪COMPANY DATA≫

●事業内容●
歯ブラシの製造・販売

●所在地●
大阪市浪速区日本橋4−1−19石井ビル2F


 
取材・文/細山田 章子  写真/小島義秀