Since 【第25回  

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2 打ち砕かれた甘い期待
「すぐにバカ売れするもんやと勝手な予想をしながら」、会社を設立。だが、現実はそんなに甘くない。試作品300本を持ってメーカーをまわったとき、「試しにパートのおばちゃんたちに使ってもらうと、口の中が血だらけになって……。ブラシの毛が太すぎたんです。それに、歯ブラシの柄の価格がまったくわからず、メーカーからふっかけられることもありました。とにかく、商売の仕方がわからんかったんですわ」。
 それでも多くの人に試してもらっては改良すること数度、その年の秋、世界初の360°歯ブラシと銘打って工業見本市『テクノメッセ大阪』に完成品を出品した。評価は高かったが、価格面で折り合わず、商談はなかなかまとまらなかった。
3 「受けては作る」で精一杯
 360°歯ブラシ「デンタルΣ」が広く知られるきっかけは、テレビ番組だった。会社設立から5カ月後、最先端のビジネストレンドを紹介する番組で取り上げられたのだ。
「すごい反響やった。すぐに2000本ほど受注したけど、受けた分を作るだけで精一杯。それ以上は無理やったな。歯ブラシの柄とブラシがメーカーから会社に届けられるやろ、営業が終わって夜、会社に戻ると、内勤の社員と一緒になって柄にブラシを植え付ける作業をしてたな。植え付けが終わると、バリカンでブラシをカットして整える。こんなこと夜中2時までやりましたわ」
 ベンチャー企業には似つかわしくない内職のような仕事ぶりでは、ストックなどできるはずもなかった。その後もマスコミに取り上げられては、受注分を生産するだけの日々が続いた。


 

≪KEY PERSON≫

松本 芳夫氏(56歳)

≪PROFILE≫

[出生・出身地]
1947年 大阪市

[趣味・特技]
電車の中で読書
(西村京太郎など。じっとしているのが苦手だから)

[座右の銘] 
ムダな努力とムダな我慢はしない


≪COMPANY DATA≫

●事業内容●
歯ブラシの製造・販売

●所在地●
大阪市浪速区日本橋4−1−19石井ビル2F


 
取材・文/細山田 章子  写真/小島義秀