関西人間図鑑  【第9回  

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ヨットマンと月
 1年9ヵ月かけて、世界周航4万2000キロのヨットの旅へ出かけた。1975年、ちょうど第1次オイルショックのころだ。デンマークから出発して、大西洋、太平洋をまわる壮大な旅。航海士として船のうえで天体の運行に敏感になるにつれ、太陽だけではなく月の偉大さを否応なしに認めざるを得なくなっていた。  
 航海の道中でいちばん親切にしてくれたのはマーシャル諸国共和国など南太平洋諸国の人々だった。
「彼らの生活ぶりが密接に“月”と関係していることも驚きでした。満月に集い、新月に漁へ出る。むかし、おばあちゃんから聞いた生活がそこにはあったんです」
旧暦とエコロジー
 航海から戻ったあと、村おこしの仕事でたびたび田舎へ足を運ぶようになる。
「お年寄りが“今日は旧暦では雨水(うすい)だ”などと、しょっちゅう“旧暦”という言葉を使っているのを耳にして興味が湧いてきたんです」  
 旧暦のいちばんの特徴は、少なくとも3年に1回は「閏月」と呼ばれる1ヵ月をプラスして1年が13ヵ月の年をつくることだ。これで月と太陽の周期の差をうめることができる。すなわち、太陽の動きにだけ着目した新暦とはズレが生じることになる。桃の節句に桃の花がまだ咲いていなかったり、七夕の夜に梅雨で天の川が拝めない理由はそこにあった。 
 旬の食べ物の時期を知り、年中行事を尊ぶことで、季節を感じ自然に寄り添って生きる。
「旧暦をふたたび広めることで、日本はエコロジーのリーダーになる可能性が大いにあると僕は思ってますよ」 
 エコロジーとは、つまり「風流」ではないだろうか。


 


≪分類≫
スローライフ目 
旧暦科

≪生息地≫
大阪

≪年齢≫
61歳


≪分布≫
南太平洋諸国から広島の片田舎まで

≪活動時間≫
四六時中

≪好物≫
いろりで焼いたサンマ

≪相棒≫
月のリズム

≪天敵≫
アタマの硬いお偉方

 
取材・文/中村 神無