関西人間図鑑  【第26回  

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田舎に存在する、"当たり前"のこと
 2年後、独立して『つばさツーリスト』を開業した。しかし、通常の代理店の業務に追われ、思いはなかなか形にならない。ある日、出張先のイギリスで小さな町を訪れた。 観光名所もなければ店の看板もない。あるのは古いレンガの街並みと、そこで暮らす人たちの姿。元気に町を駆けまわる子供たち、それを見守りながらおしゃべりしている大人たち。
「町の風景が、日本の田舎の風景とダブりました。みんな知り合いで、田んぼの手入れも子どもの面倒も、ご近所が協力しあって暮らしている。それが当たり前のこととしてある」
 こんな土地に身を置けば、繋がりの大切さがわかるかもしれない。土地の人たちとふれあえれば、繋がりを作る方法が得られるかもしれない。 
 日本に戻ると、関西の村々へ足を運んだ。「村が荒らされる」と敬遠する村もあった。しかし「特別なことをする必要はなく、日常にお邪魔させてもらいたい」という気持ちに、共感してくれる村とも出会えた。
ツアーと、田舎エコツアー
 『田舎エコツアー』と題された初めてのツアーは、2003年の夏に決行された。奈良に萱葺きの民家を訪ねる、40名でのバスツアー。
「半年かけて人数を確保し、タイムスケジュールも細かく作っていきました」
 しかし、それが逆効果になった。時間に追われて地元の人との交流が事務的になり、そのうえ大人数で行動も制限された。思い描いていた情景とはかけ離れたドタバタツアー。これでは、本末転倒だ。
 そこで、定員は2、3人からの少人数制にし、目的地での現地集合・現地解散にした。「今日はこの家にお邪魔しましょう」とだけ決めて、あとはその場次第。会話で盛り上がる人もいれば、近所へ散策に出かける人もいる。
「これがよかったんですよ。人数が少ないから村人もお客さんもお互いに構えず、いつも通りに接することができ、会話も自然と弾んでくる。ツアーのクオリティーが一気に上がりましたね」
 旅行の常識を捨てた先に、描いていたものが見えた。


 


≪分類≫
旅行案内目 
アナログ文化科

≪生息地≫
大阪府八尾市

≪年齢≫
33歳


≪分布≫
田舎の奥地

≪活動時間≫
9時〜19時

≪好物≫
おばあちゃんの手作り料理

≪相棒≫
やたらデカい携帯灰皿

≪天敵≫
酢味噌

 
取材・文/チノナツコ