関西人間図鑑  【第21回  

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国内最大の玩具博物館

 大分県の提灯屋を訪ねたときのことだ。
「『大英博物館からは凧の注文があったけど、国内の施設からはないね』と聞かされたんです。日本人は自分たちの文化に関心がないんですよ。なんで大切にしないんだって、残念で仕方がなかった」
 使命感にも似た彼の旅は続いていく。  
‘74年、自宅の一室に『井上郷土玩具館』を開く。収集家による施設としては国内初だった。
「気がつけば収集品が5000点以上になってしまってね。玩具は民族の文化が凝縮された遺産。少しでも多くの人に知ってもらいたかった」 
 駄菓子屋の玩具から世界各地の玩具と資料が増えるにつれて施設も増やした。国内最大になった10年後、名前を『日本玩具博物館』に改称、ついには45歳で会社を退職。休日ではなく、人生を玩具に費やすことを決めたのだ。
「そういう時期だったんですよ。幸い、家族の理解もありましたし」
 あっけらかんと笑う。

吹き込まれる命
 失われつつあるものを保存するだけではなく、蘇らせたい。博物館内に玩具で遊べる体験コーナーを設置したほか、新春の凧上げなどを恒例化してきた。最近では「ちりめん細工」の復興に成功している。
「ちりめんの端布を使った花や鳥、動物などの小袋が江戸から明治時代にかけて盛んに作られていたんです。すっかり忘れ去られていたのですが、30年ほど前から少しずつ集めてきた古い作品を展示したところ、大きな反響がありました」 
 貴重な文献を手に入れたことから技術復興にも着手した。彼に名付けられ新しく生まれ変わった「ちりめん細工」は和モノブームに乗り、日本全国に広まった。今も博物館に集う作り手と一緒に新作を考案中だ。


 


≪分類≫
学芸員目 
オモチャ科

≪生息地≫
兵庫県神崎郡香寺町

≪年齢≫
65歳


≪分布≫
日本全国

≪活動時間≫
5時〜22時

≪好物≫
行進曲

≪相棒≫
セキセイインコのイイコちゃん

≪天敵≫
真似するひと

 
取材・文/岸良 ゆか