関西人間図鑑  【第20回  

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86歳・元機関兵の水中慰霊祭
 04年の春、86歳になる老人が南太平洋のパラオ諸島近海に潜った。太平洋戦争末期の44年、米軍の攻撃で沈没した旧日本軍の輸送船『石廊(いろう)』が、今も海底に横たわっているからだ。約80人の機関兵のうち、生き残ったのはただひとり。時を止めたまま老人になった彼に、ダイビングの手ほどきをしてパラオの海へと導き、水中慰霊祭を執り行なった。2人は組み立て式の祭壇にお供え物を飾り、海の中で手を合わせる。
「彼には20人の部下がいて、自分だけ生き残ったことを悔いていたようやね。『石廊』の写真を握りしめてね、『行きたいと思いながら、ずっと行けずにいた』とおっしゃるんです」
 老人が抱いてきた60年分の呵責を静かに受けとめる。それが、南太平洋に没した旧日本軍の船を30年間撮影してきた理由でもあった。


 


≪分類≫
潜水目 
カメラマン科

≪生息地≫
大阪市港区築港

≪年齢≫
67歳


≪分布≫
南太平洋

≪活動時間≫
24時間

≪好物≫
行進曲

≪相棒≫
ダイビング用具

≪天敵≫

 
取材・文/細山田 章子