関西人間図鑑  【第19回  

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こんなふうに
 インタビューのあいだも、指は絶えずギターに触れている。14歳のとき、初めて手にしてから片時も離さなかったギター。今となっては身体の一部になった。長年、弦をはじくことで肩骨が内側にズレているという。
「こんなふうになっています」
 オーバーに右肩を突き出して愉快そうに話す。
「いつものように本番のギリギリまでギターを弾いていたら、スタッフに練習のしすぎと忠告されたんです。弾きたい気持ちをガマンして、ステージに上がる。やっとギターに触れられるという気持ちが、音色に反映されるって」  
 それでも2時間のリハーサルは欠かさない。“観客に喜んでもらえるプロのステージを創りたい”そのことだけを考えて練習の虫になる。
酔っ払いのオッチャンが
 映画音楽、クラシック、アニメの主題歌……。押尾のステージは、まるで音のデパートだ。
「若い頃は『わかるヤツだけついて来い!』って感じでした」
 20代の頃、押尾のギターに関心を示さないお客も少なくなかった。
「酔っ払いのオッチャンが、『そんなんエエから、美空ひばりの曲は弾けんのか?』って。せやから、これ弾いたんです」
 弦をはじくと、『真赤な太陽』のメロディが10本の指から流れた。
「オッチャンは食い入るように聴いてくれたんです。次のライブにもそのオッチャンの姿があった(笑)。いくらいい曲でも、テクニックがあっても、初めて聴く人は興味を示さない。知っている曲なら気持ちが通じる。大切なのはその人の琴線に触れること」
 ジャンルを問わないレパートリーの広さは、こんな経験からきている。


 


≪分類≫
アコースティック目 
ギタリスト科

≪生息地≫
大阪市

≪年齢≫
36歳


≪分布≫
ステージ

≪活動時間≫
昼過ぎ〜夜明け

≪好物≫
母の手作り「プリプリ海老ギョウザ」

≪相棒≫
グレーベン(愛用のギター)

≪天敵≫
禁煙空間

 
取材・文/北村 守康