関西人間図鑑  【第14回  

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必殺ピース缶爆弾
 高校に入るとバンドを組んだ。その名もパンク系バンド『必殺ピース缶爆弾』だ。お気に入りのアーティストは『セックスピストルズ』。ドラムを担当し練習に明け暮れた。パンクの発祥はイギリス。失業時代の就職にありつけない弱者の怒りや憤りを表現した歌が多い。そういったバックボーンは、本で読んで興味を持っていた最たる分野だった。
「音楽と本はつながっていました。社会でワリを食っている人々の怒り。自分の中で編集して、両者を結びつけていたんですね」
 “編集”することは、このころからの天職だったのだろうか。
 大学では法学部を専攻した。意外にも、弁護士を目指していたらしい。
「なんかヘンに開き直ってね、法の裏側を勉強してアウトローな弁護士になってやろう、とか思ってましたけど」
 口角だけを引き上げて、ニヤッと笑う。
活字はこわい
 運命のミニコミ誌を作ったのは、大学2回生のときだ。音楽評論がほとんどを占める誌面の中に、ちょっとした雑文を書くスペースがあった。記念すべき第1号に“奇型論”を書いた。決して批判ではなく、奥底に沁みついている「弱者側の立場」で書くことを忘れなかった、つもりだ。しかし、発行された翌日には左翼系や民族系の5つの団体が鼻息荒く乗り込んできた。
「天六のアジトに連れて行かれて、吊るし上げられました。ひとり真ん中に座らされ、まわりをずらーっと何十人もに囲まれて16時間。明け方に開放されたときには、もうガタガタやったね」
 “活字はこわい”。脳ミソに刻印を押された。自分の意図に反して相手に伝わり、ときには人を傷つけてしまうことさえある。
「活字で食うていきたい、というのはその頃からですね」。
 不特定多数の多種多様な人々が自分の書いたものを読む。それは、恍惚と恐怖の混沌たる世界なのだ。


 


≪分類≫
弱者目  
就職情報科

≪生息地≫
リクルート
B-ing・とらばーゆ編集部

≪年齢≫
38歳


≪分布≫
キタ区

≪活動時間≫
9時半〜24時

≪好物≫
セブンスター(毎日軽く3箱)

≪相棒≫
ドトールのコーヒー(真冬でもアイス)

≪天敵≫
警察官

 
取材・文/中村 神無