関西人間図鑑  【第10回  

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お陰で写真撮影に専念できる
 マスターはごく普通の居酒屋のおっちゃんといった風貌だ。それなのに初めて来店したお客は、羨望のまなざしでマスターをみつめる。
「すみません。一緒に写真撮らせてもらってもいいですか?」
 恐る恐る切り出すお客に「かまへんよ」とあっさり。どんなに忙しくても、いやな顔ひとつ見せずに満面の笑顔で客とカメラに収まる。 
 金色のトラのマークが入ったマスターの名刺や“巨人ファンおことわり”と書かれた箸袋を、お客は神から授かった守り札のように有り難く頂戴する。
「忙しくなれば、常連がカウンターの中へ入って手伝ってくれるし、手間のかかる料理の注文も客は控えてくれる。お陰でワシは写真撮影にも専念できるわけ(笑)」
 客がマスターに気を使う。店を盛りたてる。ヘンな店である。マスターはタイガースの化身なのかもしれない。
おもろいからに決まってるやん
 24年前に阪神球団との相談のもとで居酒屋『虎』が誕生した。経営は私設応援団のメンバー3人でしていた。
「家賃を払ってやっててんけど、地主が土地を買ってくれと言うてきた。1人2000万円はいるなぁって話になって。他の2人は辞退したから、ワシが買い取ったんや」
 それまで単なる阪神ファンが集まる店だったが、マスター自らが“江川の耳焼き”や“巨人の串刺し”などの巨人たたきのユニークなメニューを考案。一躍マスコミの注目を浴びるようになった。
「大阪で喫茶店とかスナックとかいろいろと店を経営しとってんけど、『虎』に専念することに決めてん」
 そのワケは、「おもろいからに決まってるやん」


 


≪分類≫
タイガース私設応援団常任理事目
居酒屋店主科

≪生息地≫
兵庫県西宮市

≪年齢≫
62歳


≪分布≫
阪急今津駅前
甲子園球場

≪活動時間≫
17時〜翌2時

≪好物≫
パチンコ

≪相棒≫
月のリズム

≪天敵≫
虎キチ

 
取材・文/北村 守康